二十一世紀の風景

 胸をときめかせて待っていた二十一世紀は、アトムも空飛ぶ車もない、二十世紀とたいして代わり映えのしない世界だ。もちろん僕だってたった数年で夢みたいな技術革新が起きるとは思ってなかったけれど、時折、なぁんだと思わずにはいられない。なぁんだ、僕らがわくわくして待っていたのは、こんな世界だったのか、と。本当に今は二十一世紀なのだろうか、と疑うことさえある。だって、あまりにも変化がなさすぎる。
 僕は宇宙飛行士にもガンダムのパイロットにもならなかったし、金星人のガールフレンドも出来なかったし、イルカも攻め込んでこなかった。僕は僕の父親と同じようにふつうのサラリーマンになって、週に五回山手線に乗り、よく似たモノトーンの塊のひとかけらとして銀色の車両につまったり吐き出されたりしている。
 電車がくるまでの空き時間、そんなことをぼんやりと思う。二月の夕暮れはまだ寒く、間抜けなことにマフラーを忘れた僕の首元から寒気が這いこんでくる。おもわずタートルネックのセーターを引き上げながら、首をすくめた。目の前には濃さを増した夜を忙しそうに走っていくヘッドライトやテールランプ、力強く放たれるネオンの光、高速道路や歩道に並ぶ街頭できらきらしく息づく街が広がっている。とても小さい頃から馴れ親しんだ景色のように思えて、首を傾げた。生まれは九州の田舎も田舎、本当に端だから、そんなはずはないのだけれど。
 ああ、そうか。懐かしさのもとに思い当たって、僕はおもわず笑ってしまった。宝物にしていた、少年雑誌のカラーイラストとよく似た景色が、そこにはあった。
 気付かなかっただけで、二十一世紀はきちんとやってきていた。


Fin


2008.11.6.thu.u
2008.2.23.sat.w

 

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