ボーンズ

「骨が欲しい」
 イズミがそういいながら、ぼくの肩口にかみついた。やめて、とやわらかく額を押し戻しながら、あー今年もこの季節かとぼんやり思う。
「骨」
「どこの」
「鎖骨」
「だめ、バランス変ななるから」
「じゃあアバラ」
「もう限界まであげたでしょ」
「そうか」
 ぼくの胸元を押しながら、イズミはたしかになあすかすかだ、と納得する。これ以上無くなったらちょっと形が保てないなあ、と。
 左腕は既に肩のところまであげてしまったので、ぼくは右手でしかイズミを撫でることができない。ほしいほしいと甘えられてついついあげてしまったのだけれど、両腕がなければイズミを思い切り抱きしめることができないのだ、ということに気づかなかった自分は馬鹿だと思う。せめて二本分の力で、と力いっぱい右腕だけで抱きしめると、イズミはいつも痛い痛いと嫌がる。
「でも欲しい」
「ええー……ほんともう、勘弁してよ」
「欲しい」
 ぼくのほっぺたやおでこや鼻の先を甘噛みしながら、イズミは骨、骨と執拗にねだってくる。んなこと言われても。
「ごめんね、ぼく、骨再生しないから」
 イズミはしげしげとぼくの顔を見て、ふいといなくなった。
 さめの歯みたいに元に戻ればイズミは満足するだろうか。そんなふうに生まれることができればよかったのに。すこし悲しくなってきた。
「はい」
 戻ってきたイズミに、つめたいものを押し当てられた。うああと思わず肩をすくめると、「おどかしてごめん」とイズミが若干しょんぼりして座った。
「牛乳あげる」
「牛乳?」
 押し当てられたのは牛乳パックだったらしい。ありがと、と受け取ると、イズミは珍しくにこっと笑った。
「カルシウム摂ってがんばって」
 何をどう頑張っても骨は生えないと思うのだけど、とりあえず、「がんばる」とぼくも笑い返した。


Fin


20090827thu.u
20090105mon.w

 

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