AINALBELL ZOZZOSON and DORNALBELL ZOZZOSON

 アイナルベル・ゾッゾソンとドルナルベル・ゾッゾソンは聖対の双子である。つまりアイナルベルは巻き毛の金髪に燃えるようなガーネットの単眼、ドルナルベルは絹糸のようなブルネットに澄んだサファイアの三つ目なのだ。双子が目や手足を分かち合うように生まれてくることは珍しくないが、ゾッゾソンの双子は欠損(または過多)部分を除いてほぼ同一個体のように見えるのが常であり、外見のすべてが相反するアイナルベルとドルナルベルのような者たちは非常に稀だった。
 この双子は持って生まれたギフトも見事に正反対だった。とろりとした夢想家の瞳で、アイナルベルは過去を見た。するどい理知的な瞳で、ドルナルベルは未来を見た。ただしアイナルベルは単眼ゆえに時間の遠近を見ることが苦手であり、ドルナルベルは三つの瞳それぞれが映す別の未来をひとつずつ分離するのに苦労したため、二人がその才能を正しく扱えるようになったのは十三歳の時だった。 ロマンチストなアイナルベルと現実的なドルナルベルはその内面もまた当たり前のように正反対である。たとえば二人はよくお互いに本を読み聞かせて遊んだが、アイナルベルは童話集やシェイクスピアを身ぶり手ぶりをつけて感情豊かに、ドルナルベルは自然科学や哲学書を聞きとりやすい落ちついた調子で読みあげた。共通点といえば少年時代にシャーロック・ホームズシリーズに夢中になったことの他に見当たらないほど何もかもが違っていたが、双子特有の絆により二人は深い愛情で結ばれていた。右利きのアイナルベルと左利きのドルナルベルは、その気になれば一日中手を繋いだままでも過ごすことが出来た。そんなに一緒で飽きないのかとからかわれるたびに顔を見合わせてくすくす笑い、「自分が自分であることに飽きないか、なんて質問をされたら、きっと君は相手を馬鹿だと思うだろうね?」と声を揃えるのが常であった。
 唯一の共通点であるかの名探偵への傾倒から、成人後の二人は探偵事務所を構え、持ち込まれる事件を見事に解決していった。もっとも推理家としての能力は憧れの天才探偵に到底及ばなかったが、過去を見て犯人を当てるアイナルベルと、未来を読んで犯人逮捕への最善手を打てるドルナルベルのペアは、頭脳の働きなどそこまで素早くなくても問題なかったのである。
 アイナルベルはドルナルベルのような、ドルナルベルはアイナルベルのような人が現れない限り結婚しないと常々公言しており、実際に仲むつまじく暮らして生涯独身を貫いたという。息を引き取るのもほぼ同時だったという二人は遺言により同じ墓に手を繋いだ状態で埋葬された。墓碑には「ふたつの体によるひとつの人生、ここに終わる」と彫られており、訪れたゾッゾソニアンたちが供える、金色のセロファンで包んだ赤い薔薇と墨色の薄紙に収まる青いりんどうとによっていつでも華やかに彩られている。

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