11_2.花見のこと おまけ



 

 夢を見ていた。夢の中で、桜並木の中を恭介に背負われて歩いた。
「……うお、ねてた」
 当たり前ながら、目が覚めた場所は大学の知り合いたちと飲んでいるシート、である。恭介の住んでいる街の公園だからといって、会うわけがない。そんな偶然があるわけもない。
 ちょっと寝ていたせいか、酔いがさめかけている。やだなあ、お酒のみたいな。あいていない缶を探してきょろきょろしていたら、鼻にピアスを通した、サーフィン焼け(自称)の同級生が気づいて新しいのを放ってくれた。
「うおーす、ちゅー寝すぎだろー、目覚めのいっぱーい」
「ごめんごめん。さんきゅー」
 プルトップを開けようと思ったのだけれど、寝起きのせいか力が入らない。困っていたら、隣にいた女の子がプルトップオープナーを貸してくれた。いい子だな。ありがとー、と笑って借りる。つやつやの黒髪をアップにしている、うなじの綺麗な子だ。春っぽいうすピンクのワンピースもよく似合っている。
「そのワンピ、桜っぽい」
「あ、ほんとだ」
「似合ってんねー、かわいい」
「ワンピが? わたしが?」
「りょーほー」
 にっこりすると、相手も笑ってくれた。笑ってくれる人はいい人だ。嬉しくなるから。この子、好きだな。名前はなんだっけ。知ってるはずなんだけど覚えていない。
「さっきの、お兄さん?」
「さっきの?」
「酔っ払ってどっかいなくなったちゅーくんを、おぶってここまで届けてくれた人がいたんだけど」
「あ、ほんと? あれ夢じゃないんだー、そっかー」
 お兄さん、だって。恭介、高校生に見えないもんなあ。おれと一緒にいたんじゃ尚更だ。くくっと笑って、お酒を呷った。そういえば恭介のことをなんと表現すればいいのだろう。よく遊ぶけど友達ではない、と思う。先輩と後輩、として出会った以上、おれたちはどれだけ仲良くなろうともその枠から出ることはないだろう。昔、仲の良かった別の先輩や後輩ともそんな感じだったし。
「おれの可愛い後輩ちゃんですよ、恭介くんは」
 おれと恭介の付き合いを表すのに適当な言葉ではない気がしたが、とりあえずそう言って笑った。


Fin


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