34_2.叶わぬ恋のこと おまけ



 

「ちゅーさんちゅーさん、小西真奈美っぽい二十五歳か新垣結衣っぽい二十二歳、どっちか興味ない?」
「興味なーい。年上の女のひと苦手ー」
 OLとの合コンに向かう道すがらの会話とは思えないことを言うおれに、柴っちは「これだからなあ」と肩をすくめて笑った。
 正確に言えば、二十代後半くらいか見た目の若い三十代が苦手、だ。おれはそれくらいの年齢の女性の前だと、作り笑いをしているだけでかなり体力を消耗する。女性が一番綺麗な時期らしいけれど、おれにはそう思えない。平気で嘘をついて人を放り出す悪魔の時期、の間違いじゃなかろうか。もっとも、おれにそんなトラウマを植えつけた本人はとっくに四十代になっているのだが。
 死んだ子供ではなく、おれの人生から消えた母親の年齢をずっと数え続けている。
「紹介しろって言われたんだけど」
「えー。断っといてよ」
「断っといたよ。お前彼女いんだろ?」
「ええ? なんでえ?」
 話が早いのはいいけど、一体どこからそんな話になったんだ。最近は桜ワンピさんと一緒にいることが多い(部室にいくと飲み物いれてくれるしお菓子出してくれるから、よく遊びに行く)けど、別に噂になるほどでもないだろうし。
「お前、携帯持ってないって言いつつ時々なんかメール見てにへーっとしてんじゃん。もしかしてアレは彼女専用携帯なんじゃないかと俺らの間で話題ですよ」
 飲み物を口に含んでいたら思い切り噴き出していたところだ。
 確かにほぼ恭介専用機になっている(ので、「専用携帯」のあたりはあながち間違いというわけでもない)が、みんな発想が飛躍しすぎじゃなかろうか。おれがつきあってくれと言われても片っ端からお断りしてるのは知ってるだろうに。
「で、どうなん?」
「過保護なパパンとママンがおれを拘束するためにGPS仕込んだ受信専用のキッズケータイ持たせてんだよ、って言ったら信じる?」
「信じてやろうか」
「やめてよ逆にいじめだよそれ」
 へらへら笑いながら少し考える時間を稼ぐ。彼女専用携帯、ってことでいいかなもう。彼女いるってことになれば色々手間がはぶけてラクかもしれないし。でも合コン誘ってくれる人減るだろうなあ。それはやだなあ。
「彼女じゃないんだったら誰専用よ」
 後輩(男)、と答えるとなんだかあらぬ疑いがかかりそうな気がしたので口をつぐむ。父親(正確には藤見さんだが)専用、というのもちょっと引かれる気がする。かといってうまい誤魔化し方も見つからない。
「か、彼女専用」
 ごめん、恭介。



Fin


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