38_2.プラネタリウムのこと おまけ



 

「ベガ、デネブ、アルタイル」
「全然違います。大三角はあっち」
 でたらめにさすと、恭介がおれの手をつかんでぐいっと本棚の方へ向けた。そっかあ、と笑うと、先輩覚える気ないですねと図星をつかれる。恭介が覚えててくれるからおれはいいのだ。
「すごいねー、おうちでプラネタリウム」
「ですね」
 今日は恭介の作ったプラネタリウムを見ている。星の位置を少し間違えたと言っていたけど、おれにはわからないから問題ない。きれいならなんでもいい、と思う。男同士くっつくと暑苦しいかなあ気持ち悪いかなあ、と最初は離れて座っていたはずなのに、いつのまにかすぐそばに恭介が来ていて、すこしどきりとした。
「指切ったの?」
「あー、ちょっと。細かい作業に不慣れなもので、つっついたりしました」
 夏の昼間はカーテンを締め切っていてもぼんやりとあかるい。ゆるくてぬるい寒天みたいな光で満ちた部屋の中に、嘘の星空が広がっている。本物のプラネタリウムには行ったことないけど、これよりきれいで楽しいプラネタリウムなんてどこにもないに違いない。
「あ、あれオリオン座?」
「違いますよ」
「あっれー?」
 無数の星に照らされて、まったくもう、と恭介がちいさく笑った。
「あのあたりがさそり座、オリオンの天敵ですよ」
「どれ?」
「もうちょっと右の、……そこ、それ」
 おれの視線を誘導するためなのだろう、恭介がぴったりくっついてあのあたりですと指でくるくる円を描いてみせる。やっぱりどれがさそり座なのかはわからなかったけれど、いきいきと楽しそうに説明してくれるのでおれまで嬉しくなる。
「オリオン座の話聞きたい」
「オリオンとさそりのやつですか」
「それそれ」
「いいですよ」
 星の話をしてくれるときの恭介は、いつもよりも三割くらいテンションが高い。ついついもっとないの、と子供みたいなことを言ってしまうおれに、ありますよ、と恭介は枯れない泉みたいに次々とお話を披露してくれる。
「……というわけで、オリオンは夏の空のさそりから逃げてるから冬に現れるんですよ」
「へえー」
 本当はこの話を聞くのは四回目だ。恭介も自分が話したことは覚えていると思う。それでもおれが聞きたいと言えば、「前に話したでしょう」と断ることも、適当にはしょることもなく、いいですよと答えて律儀に全部お話をしてくれる。
 おれが聞きたいのは話自体じゃなく、その「いいですよ」と、変わることのない恭介の優しさなのだろう。
「……そんなにオリオンの話好きですか?」
「好きだよ」
 オリオンの話をしてくれる恭介のことが、だけど。



Fin


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