39_2.墓参りのこと おまけ



 

 ドリンクバーでアイスティーとメロンソーダ(これはちゅー先輩の分)を取って席に戻ると、俺の頼んだシーフードドリアの皿に人参といんげんが載っていた。またか、と呆れて先輩の方を見ると、不二家のペコちゃんみたいにぺろっと舌を出していい笑顔をしている。俺がそんなものに騙されると思っているのかこの人は。
「……ドリアに人参のグラッセはないと思うんすよ」
「えーなんの話ー? せんぱいわっかんなーい」
「人のいない間に嫌いなものを移すのやめてくださいって話です」
 先輩はジャンボハンバーグを一口大に細かく切りながら、はいはーいごめんなさーいと節をつけて答えた。俺の話よりも肉が大事か。大体いい年して人参が嫌いとか言うな。
 好き嫌いが殆どない、というか嫌いな食べ物がない俺には、「これが嫌いだから食べられない」という感覚自体がわからない。だってまずいじゃん、と先輩は訊くたび力説するが、余程焦げていたり腐っていたりしない限りまずいとは思わないので首をかしげてしまう。食事なんて腹を満たせて栄養が摂れればそれでいいじゃないか、と思っているせいかもしれない。
「全く……好き嫌いなんかしてるから先輩はちっちゃいんですよ」
「違うよー。成長期が来てないんだよ」
「夢見すぎですよ二十一歳」
「ねーねー恭介くん、おれ大きくなったらパイロットになって恭介くんを海外に連れてってあげるね!」
「どこまで本気かわからない発言はやめてください、疲れるから」
 親戚の子供と喋っているような錯覚を起こして、ため息をついた。まあ、食べるものが増える分には構わない。いいっすよ、食べますよ、と肩をすくめると、先輩は「ありがとー恭介くん大好き!」といつもの成人男性らしからぬ笑顔を浮かべた。相沢といい先輩といい、俺の周りの美形はその笑顔を無駄に俺に向けすぎだと思う。ジャニーズに入って全国の女性に振りまいた方が余程有益なんじゃないだろうか。
 心底嬉しそうな顔でハンバーグを食べる先輩に、そんなにおいしいですか、といんげんをかじりながら訊いてみた。
「おいしいよー! おれここのハンバーグ好きー」
「いんげんもおいしいですよ」
「いんげんはおいしくないよ……苦いし」
 どこまでも子供みたいなことを言う人だ。好きなものはハンバーグとかオムライスだし(ここらへんにいい店がないから、と二駅向こうまで付き合わされたこともある)、好き嫌いするし挙句の果てに人に押し付けるし。一番下の従弟でももっとしっかりしている。少なくとも、ちゃんと人参は残さずに食べる子だった。
 けれど、ちゅー先輩ほどおいしそうにものを食べる人を、俺は今まで知らなかった。先輩と一緒だと、つられてなんだかいつもよりおいしい気がしてくるから不思議だ。
「……どうしたの?」
「や、なんでもないです」
 シーフードドリアも人参もいんげんも特に好きでも嫌いでもないけれど、先輩と一緒のご飯は、ちょっと好きだ。


Fin


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