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「お客サン、最近通いつめてますねェ。借金取りでも来てんスか」
「違うよー。行くとこないんだもんよ」
恭介の家にしばらくいとこが居候するらしい。その準備があるとかどうとかで、一週間ほどおれに構っている暇がない、と言われたのだ。えーつまんないー遊ぼうよーと駄々をこねてみようかとも思ったけど、「すみません」と言うときの恭介は本当に申し訳なさそうな顔をしていた(あんなに誠実に「すみません」という人は初めて見た)ので、おとなしくしている。あいにくと予定が入っていないときはとことん白紙なスケジュールのせいで、自然と漫画喫茶にばかり足を運んでしまうのだ。
「エー。お客サンの年で夏休み遊びに行かねーとかどーなんスか」
「アサだって若いでしょ……」
「え。オレいくつに見えます?」
「おれとそんな変わんないんじゃないの?」
「んっふっふ」
妙な声で笑ったアサが、耳を貸せ、というように手を振る。アイドルでもあるまいしそんなトップシークレットにするようなことですか、と思いつつも耳を寄せると、衝撃的な数字がささやかれた。かなり高めに見積もっても二十五、六歳だろうというおれの予想は見事に外れている。いや、これ当てられたら人間じゃない。ありえない。
「……はあぁ!? え、ちょ、アサおれより詐欺じゃないの!?」
「いやー、このド金髪のせいじゃないスか、若く見えんの。大体ハタチ過ぎたら男の顔なんかそんな変わんねっスよ」
そんなレベルじゃないよ。最早イリュージョンだよ。
「やー、なんつーんスかねー。苦労してないと人間老けないってヤツじゃないスかねー」
「あはは、そんなお気楽人生なの?」
苦労した人間ほど老けるなら、おれは幼く見えて当然だ。苦労なんてものはしてこなかった。一度も。
父親の顔は写真でしか知らないけど、おれを育ててくれた祖父母は優しかった。今は保護者代わりのポジションを引き継いでくれた藤見さんがいる。おれのことを何かと構ってくれる恭介がいる。遊んでくれる知り合いがいる。財布の中身はいつも寂しいけど、学費と生活費の心配をする必要はない。大学生にもなれば一人暮らしも茶髪も珍しくないからうるさく事情を訊かれることもない。
「お気楽っスよー。人生の半分くらい、好きな人のことと漫画のこと考えて過ごしてるだけっスからねー」
「へー。いーなあ」
「お客サンは?」
毎日笑って過ごせるおれは幸せだ。
「似たようなもんだよー、お気楽お気楽」
だから両親がいないことなんか、苦労とは呼ばない。
Fin
20090608mon.u
20090608mon.w
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