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「恭兄、昨日来てたのお友達?」
本を借りにきた優真にそう訊かれて、一瞬頷くのをためらった。俺にとってちゅー先輩はあくまでも「先輩」であって「友達」ではない、のだが、優真にはどっちでもいいだろう。笑って(あんた顔が怖いのよ優真が怯えるでしょあと彼女できないわよ、とミヅ姉に散々絞られたので最近はなるべく笑うようにしている。彼女はどうでもいいが優真を怖がらせたくない)肯定する。
その甲斐あってか、まだ表情は固いものの普通に会話をしてくれるようになった。最初の数日は話すどころか視線さえ合わせてくれなかったことを考えると、ゆっくりとではあるが回復しているのだろう。
「ん、そう。うるさかった?」
花火大会に行けなかったせいでちゅー先輩が落ち込んでいたので、花火を出してきて一緒に庭で遊んだのだ。だんだん俺もちゅー先輩もテンションが上がってきて、夕方でなければ確実にご近所さんから苦情が来そうなレベルで騒いでしまった。
「だいじょうぶ。恭兄が楽しそうでびっくりしたけど」
これ教科書に載ってた、と森鴎外を手に取って座った優真に、「どういう意味?」と思わず訊ねた。そんなに俺は楽しそうに生きてないだろうか。
「あの……前、親戚の集まりでみんなと遊んでる時は、あんまり恭兄おっきい声出さなかったから」
「そうだっけ?」
「うん。トモちゃんが道路に走って出ようとしたりすると、お姉ちゃんは『こらトモ危ないっ』って叱ってたけど、恭兄はトモちゃんを持ち上げて『危ないからだめって言ったでしょ』ってぼそぼそ言ってた」
「……そんなこともあったかな」
年中行事で親戚が集まると、年長者に分類される俺はミヅ姉と共にいとこたちの遊び相手をするのが常だった。トモというのは優真と同い年の男の子で、何にでも興味を示してすぐにどこかへ走っていく、手のかかる子供の典型とでも言えばいいだろうか。勿論中学二年になった今では当時の面影などどこにもないが。
「恭兄、何されても怒鳴ったりしなかったから、おっきい声出さないんだと思ってた」
「んー、まあ、そうだったかも」
いとこたちのことは嫌いではないが特別好きというわけでもなかったので、結構適当にあしらっていた。俺はそういう相手に何をされてもあまり怒ったりしない。怒るというのは相手に何か期待しているときに芽生える感情だと思う。
「昨日の恭兄、お友達の人と同じくらいおっきい声だったよ。『花火振り回すな!』とか『子供か!』とか」
「あー……まあな……」
ちゅー先輩が呆れるほどお約束を次から次へと繰り出してくる(花火を両手に持ってファイヤーダンスだの火のついた花火をバケツに突っ込んで水中花火だの)ので、正直昨日はツッコミが追い付かなかった。
声のボリュームが楽しさのバロメーターになりえるなら、たしかに昨日の俺は「楽しそう」だったのだろう。
「仲良しなんだね」
「まあ……な」
ちゅー先輩のことは嫌いではない。けれどその「嫌いではない」と、かつてのいとこたちに対する「嫌いではない」の差は何なのか、俺にはよくわからない。
Fin
20090712sun.u
20090711sat.w
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