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夏休みも学校も、どちらも特に嫌いではない。そう思っていた。
『つっちーヒマだろ! これから遊ぼーぜ!』
「……つっちーって呼ぶなって何度言えばわかるんだよ、赤井」
『いいじゃん辻なんだからつっちーで』
辻なんだからつっちーじゃないだろ、つっちーって土田とか土屋とかそういう土系の名字のあだ名だろ、と言いかけてやめた。重要なのはそこではないし、そもそも赤井に何を言っても無駄だ。俺のまわりには言っても無駄な人間が多すぎやしないか。先輩と相沢と自分の母親だけでその枠はいっぱいいっぱいだというのに。
『来いよー、よっしーとかさくらんもいるし』
誰だよ、とツッコミを入れかけて、相沢と青木さんのことらしいと気づいた。そんな風に二人をを呼んでいるやつは赤井以外に見たことないが。
「赤井、お前知り合い全員にその変なあだ名つけてんのか?」
『変って言うな。オレのネーミングセンス半端ねぇぞ』
「確かに半端ねえな」
安直さにおいて。という続きはやはり言っても無駄な気がしたので心の中だけでそっと付け足す。
夏休みは去年に比べて随分とスケジュールが埋まった。レジ俺で知り合ったメンツがなにかと連絡してくるのである。去年より仲良くなったぶん、相沢や青木さんともよく出かけた。
一年前はもっと静かだったな、となつかしく思い出す。家族や親戚絡みのものを除くと、天文部の合宿とOBOG会以外に予定らしい予定はなかった。昼間は自室や図書館で本を読んで過ごし、夜は星をながめる。四十日余りの長い休みを、そんなふうに坦々と過ごした。相沢ともそれほど親しくはなく、青木さんや赤井たちとは出会っていなかった。
それに先輩も、まだそのころは俺の人生の外側にいた。あのひととまだ一年ちょっとの付き合いしかないなんて信じられないが、本当に、八月末のOBOG会まで俺はちゅー先輩のことなどひとかけらも知らなかったのだ。
ちゅー先輩はわがままで気分屋で、思いつきを実行するための行動力も無駄にある。携帯を買おうと思ったら店も開いてない時間から呼び出すし、食べたいものがあれば真夜中でも関係なく出かけようとする。最初は正直なところ迷惑きわまりなかったが、そうやってひっぱりまわされているうちに慣れた。それに、先輩と一緒にいることで少しずつ何かが変わってきた気がする。あくまでも気がする、というレベルではあるが。
『で、来ねーの?』
「ん? ああ、行くわ。今から支度するとちょっと時間かかるけど」
『んや、いいよいいよ。じゃっ、駅前のパン屋で待ってるから早く来いな! みんなで去りゆく夏休みを惜しもうぜ』
それだけ言い残して通話は切れた。案外遠くない場所を指定された(俺が合流することを考えてそこにいたのかもしれないが)ので、二十分以内にはつけるだろう。適当に服を選んで着ながら、赤井のセリフをまねてみる。去りゆく夏休みを惜しもうぜ。
夏休みは楽しかったけれど、その分、予定もなく先輩も来ない日がすこし過ごしにくかった。学校が始まれば夕方まではすることがあるし、先輩が来なくてもそこまで暇だとは思わなくて済む。赤井には悪いが夏休みを惜しむ気にはなれない。
むしろ学校の始まる九月が早く来ればいい、とさえ思った自分に苦笑する。
悪くはない気分だった。
Fin
20090928mon.u
20090928mon.w
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