09hw-01.悪戯のこと



 


※本編とは関係の無い一種のパラレル的な何かだと思ってくださるとありがたいです。
※本編と違って既につきあってます。
※この話における先輩は襲い受けとか攻めとかに見えるので、この二つが地雷な場合は読むのをやめておいたほうが良いと思います。
※普段の星待とは若干テンションが違います。




















 なんすか、といつもどおり言ってくれさえすれば、それで済んだのだ。
 黙って脱がされてんなよそれでも男か、と心の中で自分勝手に八つ当たりしながら、震える指でボタンをひとつずつ外していく。ひとつ、ふたつ、おれの理性も外れていく、みっつ、よっつ、漫画でシャツのボタンを外すときにぷちぷちという擬音が書かれてることがあるけどあれってもしかしてスナップボタンなんだろうかとかくだらないことをふと考える、いつつ、指先が定まらなくなるけれど動きは止まらない、むっつ、それ以上外すべきボタンが見当たらなくなっておれは途方にくれながら恭介の腹に指をすべらせる。何もいわない。つめたいですともくすぐったいですとも、何も。ただ、馬乗りになっている我侭で迷惑な先輩のことを、静かに見つめている。腹立たしい。腹立たしい。何がって、この状況すべてが腹立たしい。
「いやがらないの」
 もっと酷い事を言ってやろうと思っていたのにようやく口に出来たのはそれだけで、しかも随分心細げな、迷子のような声になってしまってまた苛立った。
「べつに」
「なんで」
「……つきあってるんでしょう」
 つきあってるんでしょう、と言ったに違いないのだが、「好きあってるんでしょう」とも聞こえた。似ているようで全然違う言葉だ。好きあっていても付き合えないこともあるし、逆に好きじゃなくても付き合うことはできる。おれと彼の関係はどちらなのか、とっさにわからなくなって混乱した。
「恭介くん」
「はい」
「ねえ、恭介くん」
 なんでおれが何をしても君はいつも嫌がらないの、なんでどんなに我侭を言っても「べつにいいですよ」の一言で済ませて付き合ってくれるの、なんで押し倒されて服を脱がされても黙ってじっとしてるの、君は、君はさぁ、それで、ほんとうに、いいの? 訊きたいことが押し寄せてきて、気道がふさがれた。口に出来ない言葉はこんぺいとうみたいに甘いけど、とげだらけでざらざらと痛い。喉が傷ついて、出来損ないの笑い声が空気みたいに漏れた。
「恭介くん」
 君がなにもかもを「べつに」と言って受け入れるから、際限なく甘えてしまうよ。もしかしておれの告白も君にとっては「べつに」で済む普段の我侭の範疇だったりするんですか。おれと君はつきあってるの、それとも好きあってるの、一体どっちなのさ、ねえ。女々しい言葉を噛み潰すと、荒い息になった。傍目には欲情のサインに見えるのだろうか、とやけに冷静な(たぶん、さっきボタンを外す擬音がぷちぷちなのはスナップボタンだったりするのだろうかとか考えてたあたり)脳味噌の片隅がつぶやく。
「いやがりませんよ」
「なんで」
「好きだから、ですかね」
 ばかじゃないの、と喉の奥だけで息を吐いた。ばかじゃないの恭介。実際にはなにも言えないまま、黙って裸の胸にキスをした。普段は服に隠れている肌の持つ思いがけないなめらかさを、刻み込むように味わう。
 乾いてつめたい皮膚がヒクヒクと内臓そのものみたいに動いているのを唇で感じて、ようやく、恭介は単に顔に動揺が出ないだけなのだと気づいた。ばかはおれの方だったようだ。
「恭介くん」
「はい」
 ごめん、と言おうとしたけれど、この状況ではまったく別の意味になってしまう気がした。代わりにもう一度、震える胸に唇を捺しながら、「おれも好きです」とだけ、言った。


Fin


20091031sat.u
20091031sat.w




こんな話がたまに書きたくなります。