09hw-03.ゆびのこと



 


※本編とは関係の無い一種のパラレル的な何かだと思ってくださるとありがたいです。
※もうハロウィン関係なく只の蔵出しです。同人誌に入れようと思って書いてたけど、時間切れになったので中途半端なところで止まってたやつになんやら書き足してみました。
※貧乏性です。




















 キスでもされるのかと思ってしまったのは、きっと昨日珍しく少女漫画なんか読んだせいだ。
「……痛そうですね、これ」
 おれの左手を目の高さまで引き寄せて、淡々と恭介は言う。セリフの内容に反してあまり感情のこもらない、心配していなさそうな声と表情だ。もっとも恭介が全体的に無愛想なのは出会った日から変わらないので別に気にはならない。おれの方を見てはいるものの、心は左手の文庫本に向いたままなのだろう。
「そーでもないよ」
 薬指の第一関節を斜めに走る薄赤い傷は、見た目に反してそこまで痛くもない。常にじりじりと傷口のふちが縮むような不快な熱を持ち続けているから、うっとうしくはあるけども。
「絆創膏ありますけど」
「いいよ、なめときゃ治るもん」
「そっすか」
「なめてもいいのよ恭介くん」
 ウィンクしてみせると、遠慮しますと仏頂面で言って恭介は手を離した。冗談通じない子だなあ全くもう。
「おれの指がタダでなめられるなんてビッグチャンスをみすみす逃すとは」
「金積まれてもなめませんよそんなもの」
「そんなもの扱いはさすがにひどくない?」
「指なんかなめたって何も楽しくないでしょう」
 古いにおいのしそうな、端の色が変わっている文庫本のページをめくる指を見つめる。恭介の指は肉が薄くて節ばかりが目立つ。ナイトメアー・ビフォア・クリスマスのジャック・スケリントンみたいだ。
「指以外ならなめると言うのかね! な、な、なんとハレンチな!」
「何でそうなるんですか」
 めんどくさそうに対応する恭介の、その体温の低そうな指に唇でふれたいと思っているのはおれの方なのだけど、そう言ったところで恭介がはいそうですかと手を差し出してくれるわけもない。
 何すか、なんかついてますか、と不思議そうに訊く恭介に、笑って「なんでもないよ」という以外、おれに何が出来るというのだろう。


Fin


20091031sat.u
20091031sat.w




トップページの星が三つあるので、穴埋めにハロウィン全く関係ない話を持ってきました。
ハロウィン言いたいだけですみません。