09'xmas-10.凍る

 

 冬は寒い。冬の夜はもっと寒い。午前二時なんてもう、はっきりきっぱり氷の世界だ。窓の外で誰かがリンゴ売りの真似とかしだしちゃうくらいに。凍った空気に頭ぶつけるんじゃないかってくらいきりきり寒いのに、おれと恭介は外を歩いている。
 お腹がすいたけど何もないので、じゃあ近くのコンビニ行きましょうと言われて二人で出掛けたのだ。寒いからおれ行かない、と言わなかったおれを誰かほめてほしい。もちろんそう言えば恭介ははいはいと一人で素直に出かけてくれただろうけど、でもそれはあまりにもひどすぎるじゃないか。ジンドウニモトル、と思ったのだ。思わなきゃよかったよちくしょう寒い。
「さぁーむうーいぃー」
「冬ですからね」
 しれっと答える恭介は、黒いウールのコートと青いストライプのマフラーで防寒している。露出している耳は赤くなっているけど、そこまで寒そうでもない。寒さに強いのかもしれない。いいなぁ。おれは安っぽく光るオレンジ色のダウンと蛍光色のマフラーを巻いているし、その下ももこもこに着ぶくれているのだがものすごく寒くて仕方ない。爪先なんてもう寒いを通り越して痛い。
「さむいよー、凍傷になるよおー」
「しもやけにすらなりませんよ。先輩は大げさだなあ」
 おれが指がちぎれると騒いだので、買ったものは全部恭介が持ってくれている。袖の内側で拳を握って懸命に指をあっためているのにちっとも感覚は戻ってこない。明日絶対手袋買ってこよう、とかたく決意する。もぞもぞして嫌いだけど、寒さに指が痺れっぱなしなのよりはマシだ。
「……仕方ないですね、ほら」
 どうぞ、とコートのポケットをしめされた。なに、と顔を見て首をかしげると、「手、入れていいすよ」となんでもないことのように言った。このヒトわざとやってんの?
「恭介くん」
「はい」
「男同士でそれやるのって、もんっのっすっごくしょっぱいと思うんだけどおれ」
「すさまじいしょっぱさと騒ぐ先輩のうるささを天秤にかけた末に下した苦渋の決断です。俺だって人目があったら絶ッ対言いませんよ」
 そんなに騒いでないし、と口をとがらせつつ、寒さには勝てなかったのでずぽっと片手をつっこむ。恭介の体温であったかい。ううーあったかいよう、と思わず息を吐くと、恭介が眉をあげた。現金だな、とでも思っているのだろう。その通りなので訂正はしない。
「さむいね恭介くん」
「まだ言いますか」
「言うー。左手つめたいしぃ」
 でもこうして歩くのはいい気分だから、ちょっとだけなら凍るような寒さを好きにならないこともない。



Fin


20091225fri.u
20091224thu.w

 

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