猫と寝る冬の夜が好きだ。
もこもこけむくじゃらの天然湯たんぽを布団に入れて眠ると、もう一生朝なんか来なくたって構わない、と思ってしまうくらいに気持ちがいい。時々布団を汚されるのはその代償として甘んじて受け入れよう。中二まで飼っていた仁成は普段はきわめて猫らしくクールで手招きしても無視することが多いのだが、冬場に一緒に寝ようと誘うと仕方ないやつめとばかりに寄ってきてくれる(寒くない日は誘ってみても何で野郎と一緒に寝なきゃならん、とばかりにそっぽを向かれたものだ)いいやつだった。グレーの虎縞の毛皮はすべすべとあたたかく、たっぷりした肉づきは抱きしめ甲斐があった。腹をもみしだくとうるさげに怒られたが。
(あー、あったけぇ……)
指先に触れたもこもこを抱き寄せ、やわらかな毛の感触を確かめるように頬をすりつける。ふわりと甘い匂いがするのはなんだろうか。ああ、仁成が生きてたころはこうして寝るのが普通だったんだけどなあ。死ぬと悲しいし、仁成と比べてしまったら可哀想なのでもう猫だけでなく生き物は飼わないつもりだが、こうしているとまた猫と暮らしたくなる。
……待てよ。仁成は死んだ(ちゃんと墓も作った)し、今俺は何も飼っていない。ってことは、これは、まさか。
「せ、んぱい?」
「んあーい?」
腕の中のふわふわから間延びした声が返ってきて、一気に眠気がふっとんだ。
「なっにっをっ人の布団に入ってきてんですかアンタはああァァ!」
「ちがうよお、恭介くんがひっぱったんだよお」
「ハァ!? ……っあ」
そんなことするわけないでしょう、と言いかけて、ちょっと前の自分の行動を思い出した。指先に触れたもこもこを猫だと思って抱き寄せたおぼえが、たしかに、ある。誓ってもいいが先輩だと認識していたらそんなことはしなかった。
今年の夏ごろ、したたかに酔った先輩がひどくうなされているのを見て以来、先輩が酒を飲んだ日(つまりまあ先輩が来た日はほとんどそうだ)は、いつも寝ている押し入れの二段目ではなく隣に布団を敷くことにしている。傍で見ていてひるむくらいのうなされ方だったので、もしもまた同じようなことが起きたらすぐ対応できるようそばにいようと決めたのだが、まさかこんな落とし穴があったとは。
「……すみません」
「わかればよろひい」
眠たいのか、微妙に呂律がまわっていない。起こしてすみませんでした、と謝るが、先輩は俺の布団から出て行こうとしない。
「先輩、俺が悪かったので自分の布団へ戻って下さい」
「さむいの……」
「俺は男同士で一つの布団に寝るなんてわびしいことしたくないです」
「おれも……」
じゃあ戻ればよかろう。
完璧に睡眠モードに入ってしまったらしく、先輩はうんともすんとも言わなくなった。かすかな寝息に頭を抱えたくなる。なんなんだこの人はもう。
仕方ないので、俺の布団は譲り渡して先輩が使っていた布団にもぐりこんだ。かすかに先輩の体温が残っていて十分あったかい。というか、一応客用の(俺が使っているやつよりは)いい布団なので、こっちの方が温まりやすいはずなのだが。
枕に頭を預けると、先程と同じ甘い匂いがした。先輩のシャンプーか香水かな、とうとうとしながら考える。
かすかに残る花のような香りと体温のおかげか、その日はよく眠れた。
Fin
20091225fri.u
20091224thu.w
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