09'xmas-06.夜道


 

(もう十二星座占いなんか信じない……)
 真っ暗な夜道をぼんやりと眺めながら、わたしはそう誓った。根拠がなくたって意味不明だって、朝のニュース番組でやっている十二星座占いが気になってついつい見てしまうのは女子の本能と言っても過言じゃないと思うんだけど、でももうわたしは絶対あれを信じたりすることはない。なんてったって今日の天秤座は女子アナ特有のかわいくてよく通る声で「ごめんなさーい、今日の十二位は天秤座! 特に恋愛運は最低で、誤解続きの一日で好きな人と距離ができちゃいそう!」なんて言われてたブッちぎりの最下位だったのだ。
 それがこれですよ、奥さん。奥さんて誰。
「ごめん、速い?」
「や、だいじょうぶー」
 現在地、辻くんの漕ぐ自転車の荷台。なおかつ、行き先はわたしの家。つまり平たく言うと辻くんが自転車でわたしを家まで送ってくれております。恋愛運最低でこれだとしたら、恋愛運一位の日は一体どんなハリウッド展開になるのやらですよ、奥さん。だから奥さんって誰なのわたし。うすうす気づいてはいたけど、今のわたしは相当テンションが上がっているらしい。
「ごめんねー、送ってもらっちゃって」
「いや、全然。どうせ女王様にパシられてる途中だったし」
「あはは。女王様?」
「我侭放題ないとこの姉ちゃん」
 迷惑そうな口調とは裏腹に、声は楽しそうだった。といっても辻くんはたんたんと静かに喋るので、そこから感情の揺れを読みとれるようになったのはわりと最近のことだ。一年の時から仲のいい相沢くんでも「恭介は何考えてるのかよくわかんね」と言うくらい、辻くんはわかりにくい。
 吐いた真っ白な息が、すぐに後ろへ流れていく。田舎だから灯りは少ないけど、そのぶん建物の輪郭とかがうすあかるくてなんだかいい感じだ。もっとも、これがひとりでとぼとぼ歩いて帰る途中だったら「オバケ出そうでこわい」以外の感想は出てこないだろうけど。我ながら現金だ。
「うおっ」
「わっ」
 石か何かを踏んだらしく、自転車がガタッと大きく揺れた。バランスが崩れて反射的に辻くんに抱きつき、数拍おいてからはっとして離れる。うおおわたしはなんてことを。
「ご、ごめん!」
「いや、危ないからそのままつかまってたほうがいいかも」
「うっ、えっ、うん」
 おじゃまします、と心の中でつぶやきながら(どこにだ、と自分でツッコんでおく)そっと辻くんに抱きついてみる。うう、あったかい。じゃなくて、距離ができちゃいそうどころか近づきすぎだよこれ。なんてこった。朝の星座占いは本当に信用ならない。
 顔が赤くなっているのがわかる。テンションと体温が上がりすぎて、このままじゃ勝手にでろでろ溶けだすかもしれない。怪奇! とろける女子高生! なんつって。……ダメだ、はしゃぎすぎでもう自分でも意味分かんない。
「うあー、しあわせ……」
「なんか言った?」
「い、言ってないっ!」
「そう? 運転荒かったら言って」
 うなずいてから、見えないなと気づいて「わかった」と答え直した。運転がもっと荒ければそのぶん抱きつく口実も増えるんだけどなあ、などと辻くんの気づかいを思い切り踏みにじるような不埒なことを考えてしまうわたしはけっこうひどいやつである。
 イルミネーションどころか街灯さえまばらな暗い夜道も、好きな人の自転車のうしろから見るとため息が出るくらいきれいだ、ということを、わたしは知った。


Fin


20091225fri.u
20091224thu.w

 

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